Portfolio Guide

多疾患併存
ポートフォリオ作成ガイド

専攻医向け|向いている事例の選び方・優の評価基準・書き方・参考文献

ポートフォリオ目標:複数の疾患が絡み合った症例において、主治医として複数の医療施設や専門医・専門科の間で連携をとり、適切にマネジメントできる。
達成目標(合格水準)
多疾患併存 複数の疾患が絡み合った症例において、主治医として複数の医療施設や専門医・専門科の間で連携をとり、適切にマネジメントできる。
優の要件
複数かつ難しい疾患や問題が絡み合った事例において、主治医として専門医や医師以外の医療専門職との協働を適切にマネジメントしている。治療負担と患者の能力のバランスにも配慮できている。

「優」が問う4つのキーワード

大浦講演スライドより:「ポートフォリオのキーワードは相互作用・経年変化・介入のバランス・迷い
相互作用
疾患同士・治療同士がどう影響し合うかを記述できているか
経年変化
問題の優先度が時間とともに変化していることを捉えているか
介入のバランス
治療負担と患者の能力のバランスを意識した介入になっているか
迷い
意思決定の葛藤・ジレンマ・選択の根拠が誠実に書かれているか

優を左右する6つの評価軸

複数の疾患・問題の絡み合いが記述されている

単なる疾患の羅列でなく、疾患間の相互作用・競合・影響関係が明示されている。「難しい疾患」である必要はなく、ありふれた疾患の複合でも相互作用を論じれば十分。
例:糖尿病とうつ病、変形性関節症と認知機能低下の組み合わせでも、相互作用を意識した介入が書ければ優水準に達する。

主治医として専門医・多職種との協働をマネジメントしている

ポリドクター状態をどう調整したかのプロセスを記述。他科医師への丁寧な紹介・情報提供・確認、薬剤師・看護師・SWとの連携。「ケアの断絶」を防ぐための工夫が書かれているか。
例:整形外科医と相談しセレコキシブ中止、泌尿器科医に離床改善を説明しウラピジル中止、眼科医院への経過報告——この対話のプロセスを書くことが重要。

治療負担と患者の能力のバランスに配慮している

患者のCapability(疾病理解・サポート・レジリエンス)を評価し、Treatment Burden(ポリファーマシー・ポリドクター・ポリアドバイス)の過剰を特定できているか。
例:薬剤数が2→7剤になり4科通院になったタイミングで「バランスが崩れた」と明示し、引き算の介入(3剤中止・診療科統合)を選択した根拠を述べる。

患者の真のニーズ・優先事項が介入に反映されている

「免許更新が目標か、買い物ができることが目標か、料理を楽しむことが目標か」——患者が本当に大切にしていることを聴取し、それが治療選択に反映されているか。
例:「好きな料理を作ることが大事」という想いを起点に、配食サービスではなく自立支援型の介入を選択。スーパーへの限定的な運転許可という第3の選択肢に至るプロセス。

問題の優先順位の変化(経年変化)を捉えている

ケア移行・入院・新疾患発症などのタイミングで優先順位がどう変わったか。「現在の最大の問題点は何か」「この薬はもう不要ではないか」「治療目標を緩和すべきか」という問いが書かれているか。
例:外来開始時は血糖・血圧管理が最優先だったが、入院で治療負担が急増したタイミングで「バランスを維持すること」が最優先になった変化を記述。

深い振り返りと具体的な学習

「やり直せるなら入院前に本人の希望を理解していた」——このような具体的な後悔・迷いの記述が優を分ける。「難しかった」「勉強になった」で終わる振り返りは不十分。
実例集より:「本事例をやり直せるなら入院してしまう前に本人の家事に対する希望を理解し,周囲のサポートを強化するよう意識したい。」
減点になるパターン:①病歴サマリーで終わる ②「管理できた」という結果報告 ③減薬だけで患者優先事項への配慮がない ④患者の声が反映されていない ⑤他科への配慮なく診療科を統合
実例集より:「無難なのはありふれた健康問題の複合化と複雑化という観点から論じること。疾患一つ一つが難しい必要はない。」
ケア移行のタイミング
最もまとめやすい外来→入院、入院→退院・在宅などのタイミングで治療負担が急増した事例。優先順位の変化が可視化しやすい。
例:外来で2剤管理中に別疾患で入院→薬剤7剤・4科通院になりバランスが崩れた。退院調整で主治医として診療科統合・薬剤整理を行ったケース。
疾患間の相互作用が治療方針に影響
相互作用複数の疾患の治療が互いに矛盾・競合する。ガイドラインを「そのまま」適用できない状況を明示できる。
例:心不全+COPD(β遮断薬の適応 vs 禁忌)、糖尿病+CKD(厳格血糖管理 vs 腎保護)、NSAIDs+胃潰瘍リスク+腎機能障害
患者の真のニーズが方針を変えた事例
患者優先事項患者の価値観・生活目標を聴取することで、ガイドライン準拠でない選択が正当化された事例。
例:「好きな料理を作りたい」という想いを起点に介入方針が変わった。免許更新か返納かの二択でない第3の選択肢に至ったケース。
指導医との振り返りで優先順位を問い直した事例
日常外来から実例集より:「継続外来を指導医と振り返って,プロブレムリストの優先順位について意見交換するだけでも多疾患併存のプロブレムの立て方を意識できる」
例:指導医との優先順位の相違があり、そのギャップを患者に適応したことで介入内容が変わったケース。「活きた」ポートフォリオになりやすい。
ポリドクター状態を主治医として統合
多職種連携複数の診療科に通院中で、ケアが断絶していた患者に対して、各科との対話を通じて情報統合・処方一元化を行ったケース。
例:内科・眼科・泌尿器科・整形外科の4科通院患者。各科医師への確認・情報提供・報告のプロセスを詳述。
ポリファーマシー見直しが患者能力向上につながった事例
バランスモデル処方薬の整理が単なる減薬でなく、患者の自立・アドヒアランス改善・QOL向上につながった事例。「なぜその薬が始まったか」も確認しながら。
例:1日3回服薬を夫の内服タイミングに合わせて1日1回に統一。デイサービス増加との組み合わせで服薬アドヒアランスが劇的に改善。

日本で多い5つのマルモパターン(Aoki et al. 2018)

心腎代謝パターン
高血圧・糖尿病・脂質異常症→CKD・CVD。慢性疾患ケア・生活習慣改善が重要。
精神科疾患パターン
PD・認知症・うつ病。精神科との連携・メンタルヘルスアプローチが重要。
骨格/関節/消化器パターン
変形性関節症+NSAIDs→胃潰瘍。複数科マネジメント・処方整理が重要。
呼吸器/皮膚パターン
喘息+アトピー。若年から。移行期ケア・心理社会的アプローチ。
悪性/消化器/泌尿器パターン
悪性疾患+消化器・泌尿器疾患。緩和・終末期・多科連携。
避けるべき事例:①希少疾患の診断パズルで終わる ②単一疾患の急性期対応のみ ③疾患が多いが相互作用・葛藤が生じていない ④患者のナラティブだけで医学的妥当性の検討がない

マルモのトライアングル(3ステップ)

Step 1
プロブレムリスト整理
疾患グループ化・パターン分類・ポリファーマシーリスト・社会的問題の可視化
Step 2
バランスモデル
患者の能力(Capability)↑ vs 治療負担(Treatment Burden)↓ のバランス評価
Step 3
四則演算
足し算・引き算・割り算・掛け算で過不足のない介入を選択
Step 2 バランスモデル詳細
Mercer S, ABC of Multimorbidity 図8.2 を大浦が改変。天秤の左右で考える。
増やしたい:患者のCapability
疾病理解:治療目的・内容を患者が理解しているか。ヘルスリテラシー・価値観も含む。
サポート:公式(介護サービス)+非公式(家族・友人)。服薬・通院・意思決定のサポート。
レジリエンス:大変なことがあってもより良い方向に向かえる力。趣味・仕事・日常ルーチンから把握。
減らしたい:Treatment Burden
ポリファーマシー:本当に必要な薬か?アンダーユーズ(必要な薬が入っていない)も同時確認。
ポリドクター:主治医機能が誰にあるか不明確。ケア断絶→ポリファーマシー化。対話で調整。
ポリアドバイス:食事・運動・服薬指導が多すぎて生活負担になっていないか。実現可能な計画に。
注意:治療負担を減らしすぎると必要な薬が入らなくなる。サポートを増やしすぎると患者の自発性が損なわれる。バランスを崩しすぎないことが重要。
Step 3 四則演算の考え方
足し算
エビデンスに基づいて包括的介入。標準的治療に漏れはないか(アンダーユーズ)。
引き算
負担や害が多くなる介入を減らす。あえてやらないことを決める。根拠を持って。
÷
割り算
プロブレムをまとめられないか。処方カスケードで生じたプロブレムを統合。
×
掛け算
少ない介入で大きな効果を生むレバレッジポイントを見つける。患者・家族・地域を見ることで見つかる。
実践例:夫の介護負担(構造の問題)→デイサービス増加(掛け算)→膝の痛み軽減・服薬改善・骨粗鬆症薬中止(引き算)が連鎖。「問題を直接解決しようとしない」システム思考的アプローチ。
ポリファーマシーチェックリスト(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 を大浦が改変)
「中止すべき薬はないか」だけでなく「必要なのに処方されていない薬剤はないか(アンダーユーズ)」も同時確認。
出血関連血糖関連易感染関連脈拍関連老年症候群(転倒/誤嚥/認知症/尿閉)腎機能関連排便/消化器関連漢方薬関連高額薬剤関連

タイトル(表題)の書き方

実例集より:「表題と事例を選んだ理由を読むだけで事例の理解の深さが想像できるように書くのが望ましい。エントリー領域の基本用語は理解した上で、事例に特徴的で最も勉強になった点を表題に記載すると良い。」
良い例:「患者の真のニーズを意識することで、治療負担の軽減を工夫できた事例」
避ける例:「多疾患併存状態になった患者に対して包括的にアプローチした事例」(学びが見えない)

事例記述・考察の7ステップ

1
プロブレムリストの構造化:疾患グループ・ポリファーマシーリスト・社会的問題を一覧化。マルモパターンへの当てはめ。プロブレム数が多い場合はグループ化して縦に長くしない。
2
疾患間の相互作用の言語化:「どの疾患がどの疾患・管理に影響しているか」を明示。競合・増悪・副作用の増幅・治療目標の矛盾を言葉にする。
3
バランスモデルによる評価:Capabilityの3要素(疾病理解・サポート・レジリエンス)とTreatment Burdenの3要素(ポリファーマシー・ポリドクター・ポリアドバイス)を評価する。
4
患者の真のニーズ・優先事項の確認:「本当に大切にしていることは何か」を記述。医師のパターナリズムとの葛藤があれば正直に書く。
5
四則演算による介入記述:足し算・引き算・割り算・掛け算の視点で介入を整理。何を加えたか・やめたか・まとめたか・レバレッジポイントはどこかを書く。
6
専門医・多職種との協働のプロセス:単に「紹介した」でなく、どのような対話をしたかを記述。他科医師への敬意・確認内容・情報提供の工夫。
7
振り返り:迷いと具体的な学習:「やり直せるなら○○を事前にしていた」という具体的な後悔・迷いの記述が優を分ける。次の診療行動の変容を具体的に記す。

ポリドクター統合の記述で大切なこと

実例集より:「薬の処方にも物語がある。なぜこの薬が開始されたのかを患者や前医に確認することで,処方継続も許容されるだろう。患者に診療科の一元化を提案する際には,患者だけでなく各診療科との対話も重要になる。」
各科医師に確認すべきこと:①これまでどんな治療をしたか ②患者との関係性はどうか ③専門家として気をつけて欲しいところ ④どうなったら紹介すべきか。この話し合いを通じた信頼関係の構築をポートフォリオに書く。
複数の診療科に通うほうが患者が安心する場合はそれを尊重しても良い。大事なのは「ケアが断絶されて患者が不利益を被らないこと」であり、そのための工夫を記述すること。

考察で問うべき問い(自己チェック)

?
疾患間の相互作用に、私は最初から気づいていたか?気づいたのはどのタイミングで、何がきっかけか?
?
患者の「真の問題点」は何だったか?免許更新が目標だったのか、買い物ができることだったのか、料理を楽しむことだったのか?
?
ポリドクター状態は「解決すべき問題」だったのか?対話なしに統合を急いでいなかったか?
?
私は「足し算」をしすぎていなかったか?あるいは「引き算」しすぎて必要な薬が入っていない状態にしていないか?
?
この経験が次に同様の患者に出会ったとき、具体的に何を変えるか?

大浦資料に引用された文献

テキストMercer S, et al. ABC of Multimorbidity. John Wiley & Sons, UK, 2014.
バランスモデル(図8.2)の原典。大浦が改変して臨床・教育に使用している最重要テキスト。ポートフォリオ参考文献として最も引用しやすい。
2012Guiding Principles for the Care of Older Adults with Multimorbidity: An Approach for Clinicians
J Am Geriatr Soc. 2012;60(10). PMID: 22994865|米国老年医学会の5原則(患者価値観・エビデンスの限界・リスクベネフィット・実現可能性・QOL)。四則演算の理論的基盤。
2014Muth C et al. The Ariadne principles: how to handle multimorbidity in primary care consultations
BMC Med. 2014;12:223. PMID: 25484244|欧州のアリアドネ原則。①相互作用の評価 ②患者の志向を考慮した優先順位付け ③個別化された管理。
2016Farmer C. Clinical assessment and management of multimorbidity: summary of NICE guidance
BMJ. 2016;354:i4843. PMID: 27655884|NICEガイドラインNG56。ポリファーマシー中止の提案・QOLへの治療負担の影響評価・個別管理計画。
2018Aoki T et al. Multimorbidity patterns in relation to polypharmacy and dosage frequency: a nationwide, cross-sectional study in a Japanese population
Sci Rep. 2018;8(1):3806. PMID: 29491441|日本人の5つのマルモパターンを特定した国内データ。プロブレムリストのパターン化・整理に直接活用できる。
2019Boyd C. Decision Making for Older Adults With Multiple Chronic Conditions: Executive Summary for the American Geriatrics Society Guiding Principles
J Am Geriatr Soc. 2019;67(4):665. PMID: 30663782|2019年版米国老年医学会推奨。health trajectoryの特定・ケア移行時の情報伝達を強調。
2015Scott IA et al. Reducing inappropriate polypharmacy: the process of deprescribing
JAMA Intern Med. 2015;175(5):827. PMID: 25798731|5ステップの減薬プロトコル。「引き算」の具体的手順として引用可。
2025Aoki T, Okada T, Masumoto S et al. Development and validation of a Japanese version of the MTBQ (J-MTBQ)
Sci Rep. 2025;15:25991.|J-MTBQの開発・検証論文(共著者:大浦誠)。日本語で治療負担を測定する初の標準化ツール。
2017佐藤健太. Multimorbidity時代のプロブレムリストの作り方
日内会誌. 2017;106:2535–2544.|疾患が多いプロブレムリストのグループ化手法。大浦のプロブレムリスト案の理論的根拠。
2015日本老年医学会. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
ポリファーマシーのリスト化根拠。出血関連・血糖関連・老年症候群関連など9カテゴリー分類の出典。
1996van den Akker M, Buntinx F, Knottnerus JA. Comorbidity or multimorbidity: what's in a name?
Eur J Gen Pract. 1996;2:65–70.|「マルチモビディティ」という概念・用語を定義した原典。
連載大浦誠. ケースで学ぶマルチモビディティ(週刊医学界新聞, 医学書院)
四則演算・マルモのトライアングルの詳細解説の原典。ポートフォリオ作成時に最も参照しやすい日本語一次資料。

このガイドの内容はあくまで参考情報です。実際の診療における判断は、担当医師の責任のもとで行ってください。