🐻 マルモ

マルモカンファ ファシリテーション

南砺市民病院 多職種チーム / ハンドブック第0版

答えを急がなくていい。大切なのは、一緒に考えること。
わからなくていい。すぐに決めなくていい。この場は、みんなで「ゆっくり考える」ための場所。患者さんのいちばんを、チームで見つけよう。
マルモカンファレンスとは

多疾患併存(マルチモビディティ)の患者を前に、多職種チームで「患者さんをもっと知る」ためのカンファレンス。2021年に南砺市民病院で始まり、53回以上続いている。

名前の由来:マルチモビディティをバランスよく見るための妄想力を鍛えるカンファレンス。「妄想力」というキーワードが核心にある。

一般的なカンファとの違い
一般的なカンファ
マルモカンファ
目的:方針を決める
目的:患者さんを「知る」
主役:医師・専門職
主役:患者さんの生活
言葉:専門用語OK
言葉:やさしい言葉のみ
結論:必ず出す
結論:出なくてもいい
時間:提示も議論も短く
時間:提示5分・議論2時間
雰囲気:問題解決モード
雰囲気:妄想・好奇心モード

マルモカンファレンスは、問題を「解決する」場ではない。患者さんという人間を、チームみんなで「理解していく」場だ。

3つの約束
やさしい言葉で話す
専門用語は使わない。中学生でもわかる言葉を選ぶ。「心不全」より「心臓が弱っている」、「ADL低下」より「動けなくなってきた」。
結論を急がない
「で、どうするんですか?」という問いを、いったん脇に置く。答えが出なくても、それでいい。「わからないまま、一緒にいられる」ことを大切にする。
誰でも発言できる
医師も看護師も介護士も、患者さんの家族も。立場や経験年数は関係ない。日常の中で患者さんをよく知っている人の声ほど、価値がある。
この場が守る5つの価値
全員が幸せに帰ること
患者さんのことを話しながら、発言した人が責められたり、恥をかいたりすることがあってはならない。ファシリテーターの最初の仕事は、そういう場をつくること。
「べき論」を持ち込まない
「~すべき」という言葉は、場を「正解を競う場」に変える。ファシリテーターは「なぜそれを聞きたいと思ったんですか?」と問い返す。
守秘義務――外に出さないから、本音が出る
冒頭に守秘義務を確認する。「ここで話したことはすべて、ここだけにとどめてください」。守秘義務があるからこそ本音が言えるのだ。
心理的安全性――「変なことを言っても大丈夫」
的外れな発言はない。思いがけない角度からの一言が、場を動かすことが多い。介護士さんの「仏間の位置をすごく気にしていました」が、家族関係の理解を一気に深めることがある。
多声性――一つの声が主役にならない
オーケストラと同じ。医師の声、看護師の声、介護士の声、患者・家族の声、それぞれが違うパートを奏でることで、その人の全体像が見えてくる。ファシリテーターの役割は、まだ聞こえていない声を引き出すこと。
妄想を楽しむ
「答えを出す」のではなく、「この人はどんな暮らしをしているんだろう」と一緒に想像する。
「毎日どのスーパーに行くんでしょうね」
「特売の曜日、決まってそう」
「好きなおかずって何だろう」
「バラエティが好きなら、どんな番組見てるんだろう」

こうした「妄想」は脱線ではない。答えが出なくてもいい。その人の生活が、参加者の頭の中でリアルになることが目的だ。「わからないまま、一緒にいられる」――これをマルモカンファでは大切にしている。

冒頭に伝える守秘義務の言葉(そのまま使えます)
「患者さんが特定できるような情報はスライドに入れないようにしてください。地名や、その人だとわかってしまうような特徴的な情報も避けてください。妄想力を鍛えるカンファなので、多少架空の設定を加えてもかまいません。」

「話しているうちに、プレゼンターご自身の経験や、参加者の皆さんのご家族のこと、個人的な事情をつい話してしまうことがあります。患者さんの情報だけでなく、この場で出た話はすべて、ここだけにとどめてください。」
参加のルール
症例提示は1枚スライドで
シンプルであればあるほどいい。「もっと情報があれば」と思う余白が、妄想の入り口になる。
基本情報
年齢・性別(「70代・男性」程度で十分)
家族図
続柄・同居・関係性のニュアンスまで書けると尚よし
病気のリスト
わかりやすい言葉で(高血圧・糖尿病・膝の痛み)
薬のリスト
種類と数がわかれば十分(例:6種類)
生活・個人情報
趣味・好きなもの・日課・住まいの様子など
家族の情報
関係性・家族の思い・事情(話が広がる)
気になること
解決策でなくていい。「なんとなく」で十分
守秘義務への配慮:実名・地名・所属など個人が特定できる情報は入れない。特徴的すぎるエピソードは少しぼかす。多少の架空の設定を加えることも許容される。
この地図通りに進まなくてもかまわない。脱線したり、沈黙したり、大どんでん返しがあったりするのがマルモカンファだ。
2時間の地図
開始〜30分
オープニング・自己紹介
言うも自由、言わないも自由。初参加の方は大歓迎の拍手で迎える。常連の参加者にはお手本の自己紹介を頼むことも。
30〜35分
場のルール確認
守秘義務・専門用語禁止・べき論禁止をやんわりと。「……とはいえ、それ自体がべきみたいですね」で笑いを取りながら共有する。
35〜40分
症例提示(約5分)
プレゼンターが1枚スライドで紹介。薬剤師さんへの一言コメントを促すことも。ただし発言順を固定しない。
40分〜(序盤)
ディスカッション:自然な疑問を解き放つ
どんな方向に話が進んでも制御しない。「患者さんの解像度を上げるような質問を」と促す。妄想でいいので予想してもらう。
中盤
ディスカッション:イメージが変わる瞬間を捕まえる
「最初はこういう患者さんだと思っていましたが、今はイメージ変わりましたか?」この一言で参加者が自分の中の変化に気づく。
終盤
ディスカッション:着地へ
「結局どうなったんですか?」が出たらプレゼンターに答えてもらう。プレゼンターの判断を批評しない。「いろいろな回答があっていいと思います」。
残り10〜15分
クロージング
初参加の方を中心に全員から一言ずつ感想をいただく。最後にプレゼンターへの大きな拍手で締める。
沈黙・混沌が起きたとき

✦ 沈黙は失敗ではない。場が深くなる手前のサインかもしれない。ファシリテーターが落ち着いていることが、場の安心につながる。

クロージングで使う言葉
締めの問いかけ
「参加する前と後で、この患者さんへのイメージは変わりましたか?」
場を温める一言
「色々ありましたが、なんだかんだで幸せそうな方ですよね。」
重鎮に「結局何が大事かわからない」と言われたとき(大チャンス)
「さすが先生。マルモカンファの最大の特徴を指摘してくださいました。このカンファは従来の問題解決型とは違い、あえて多職種の視点を共有することに主眼を置いていたのです。」
カンファが盛り上がらなかったとき
「今日は少し違う雰囲気でしたね。話しにくいことがありましたか?」
→ プレゼンターが「実は、ここに触れてほしいところがあったんです」と打ち明けてくれることがある。これがマルモカンファの「大どんでん返し」。
専門用語が出たとき — 翻訳し続ける
「中学生の自分は知っていたか」がシンプルな基準。
翻訳の例
「症例というのは、病気の患者さんのことです」
「ADLというのは、移動や着替えや食事を自分でできるかどうか、ということです」
場全体の理解を揃える
「要はこういうことですね」
難しい発言をした参加者も傷つかず、「うまく言ってもらえた」と感じることが多い。
知らない用語が出たら
「これはどういう意味ですか?」
ファシリテーターが率先して聞くことで、参加者も「聞いていいんだ」と感じる。
ぺこぱ風ファシリテーション — 荒れた発言をポジティブに変換
発言を嗜めると場が凍りつく。どんな発言もポジティブに変換して拾う。
例① ゴミ屋敷への否定的発言
「ゴミ屋敷かよ。最悪な家族だ。全員ダメ人間。」
「モノをとても大切にしているんですね。ため込み症という状態が背景にあるかもしれません。こういうとき、どんな病気が関係していると思いますか?」
例② 「治療を拒否する患者」という強い言い回し
「この患者、治療を拒否するんですよ」
「拒否するって、具体的にどんなやり取りがあったんですか?」
例③ 問題解決型の質問(序盤に出た場合)
「一番困っていることは何ですか?」(序盤)
「確かに大事な問いですね。でもそれを聞くのは、推理小説を読む前に『で、犯人は誰ですか』と聞くようなものかもしれません。もう少しプレゼンターのお話を聞いてみましょう。」
例④ 同じ質問が出たとき
「趣味は何ですか?……あ、さっきも同じ質問が出ていましたね。すみません」
「ちょっと違うかもしれないので、遠慮なく言ってみてください」「あなたの視点に興味があります」
特定の人だけが話し続けるとき
「質問がいくつかあるようですね。まとめて聞かせていただけますか?」
(ひと段落したら)「たくさん質問してくださいましたね。素晴らしいです。」
患者・家族の声が置き去りになりそうなとき
「ここで私からも気になっていたことを聞いていいですか。患者さんや家族の思いが、まだ見えてきていない気がするのですが。」
ファシリテーターがやらないことリスト
カテゴリやらないこと
雰囲気発言を嗜める・否定する・遮る。沈黙を焦って埋める。
進行結論を出そうとする。時間を気にしすぎる。発言の優劣をつける。
言葉べき論を使う。主語の大きい意見を言う。専門用語を使う。
プレゼンタープレゼンターを晒しあげにする。無理な回答を求める。感謝を忘れる。

✦ このリストを守ろうとしすぎると、それ自体がべき論になる。あくまで参考として、自分の感覚で場に臨んでほしい。

そのまま使う必要はない。自分の言葉にアレンジして使ってほしい。
オープニング
「言うも自由、言わないも自由です。気楽にどうぞ。」
「今日の目的は、患者さんの解像度を上げる妄想をすることです。答えが出なくても大丈夫です。」
「べき論や主語の大きい意見は控えていただけると場が広がります。……とはいえ、それ自体がべきみたいですね。」
発言を引き出す
「ちょっと違うかもしれないので、遠慮なく言ってみてください。」
「聞き逃してしまうこともありますし、あなたの視点に興味があります。」
「たとえば、家族構成とか、そんなことでもいいんですよ。」
「妄想でいいので、どんな答えを予想しますか?」
「きっとわからないと思っている参加者も多いと思います。いい質問、ありがとうございます。」
専門用語・べき論が出たとき
「◯◯というのは、簡単にいうと△△ということです。」
「要はこういうことですね。」
「これはどういう意味ですか?」
「なぜそれを聞きたいと思ったんですか?」
序盤・中盤・終盤の問いかけ
序盤(問題解決型の質問が出たとき)
「推理小説を読む前に『犯人は誰ですか』と聞くようなものかもしれません。」
中盤(イメージの変化を確認する)
「最初はこういう患者さんだと思っていましたが、今はイメージ変わりましたか?」
終盤(オチを求める声が出たとき)
「皆さん、そろそろオチが欲しくなってきましたね。プレゼンターの先生、なぜこの方を紹介したかったのか、そして結局どうなったのか、少し教えていただけますか。」
クロージング
「参加する前と後で、この患者さんへのイメージは変わりましたか?」
「皆さんの視点が広がっていたら、今日のカンファは大成功です。」
「色々ありましたが、なんだかんだで幸せそうな方ですよね。」
「これは当事者でなければわかりませんからね。」
「参加してみていかがでしたか?」
症例提示スライド — 記載例
基本情報
70代・男性
家族図
妻と二人暮らし。子どもは遠方に2人。妻が主介護者。心配性で受診に毎回同伴。
病気
高血圧・糖尿病・膝の痛み
6種類
生活
元大工。お祭りが好きで笛が上手。毎朝散歩している。
気になること
なんとなく元気がない気がする。
当日の流れ(ファシリテーター用チェック)
時間の目安内容
開始〜30分自己紹介。言うも自由、言わないも自由。初参加者は大歓迎の拍手で。
30〜35分場のルール確認。守秘義務・専門用語禁止・べき論禁止をやんわりと。
35〜40分症例提示(約5分)。薬剤師への一言コメントを促すことも。
40分〜2時間ディスカッション。序盤→中盤(イメージ変化)→終盤(着地)。
残り10〜15分クロージング。「イメージ変わりましたか?」全員に一言。プレゼンターへの拍手で締める。
守ってほしいこと(エッセンス)
患者さんの解像度を高めることが目的
治療の方針を決める場でも、問題を解決する場でもない。「この人はどんな人なんだろう」という好奇心が、場の中心にあり続けてほしい。
結論を出さない
答えが出なくていい。わからないまま終わっていい。その気持ち悪さに耐える力(Negative Capability)が、じわじわと育っていく。
心理的安全性と守秘義務に最大限の配慮をする
プレゼンターも、参加者も、この場で傷ついてはならない。ここで話したことはここだけにとどめる。その約束があるから、本音が生まれる。
権威勾配をなくす
医師も学生も、ベテランも新人も、同じ場に座る参加者だ。立場や経験年数は、この場では関係ない。
プレイフルな学びの場であること
どんなに辛い事例であっても、全ての方が笑顔で終われるような場であってほしい。それがマルモカンファレンスだ。