🩺 診察

身体診察 リファレンス

初期研修医向け / 手順・型・所見の読み方

診察は「観察」から始まる。入室した瞬間から診察は始まっている。バイタルを見る前に、患者の全体像を眺める習慣をつける。
診察の大原則
診察前の準備
手洗い・手指消毒
患者に見えるところで行う。信頼感と感染対策の両方。
聴診器を温める
冷たい聴診器は患者が驚く。手で温めてから当てる。
体位を整える
胸部:座位か仰臥位上体起こし。腹部:仰臥位・膝を軽く曲げると腹壁が弛緩する。
プライバシーに配慮する
必要な部位だけ露出。カーテン・スクリーンを活用する。
全身の系統的診察フロー(ベッドサイド標準版)
頭頸部
口腔・咽頭
頸部
胸部(肺)
手順方法と着目点
視診呼吸補助筋の使用・陥没呼吸・胸郭の左右対称性・呼吸数と深さ
触診声音振盪:「ひとつ、ひとつ」と発声させ両手で左右比較。増強→肺炎、減弱→胸水・気胸
打診中指の第2関節を軽く叩く。清音(正常肺)・濁音(胸水・肺炎)・鼓音(気胸)
聴診前面3カ所・背面6カ所を左右対称に。深呼吸させながら聴く。
主な肺音の種類
性状意味
Fine crackles吸気終末期の細かい断続音。「パチパチ」間質性肺炎・心不全(肺水腫)
Coarse crackles吸気早期の粗い断続音。「ブツブツ」気管支炎・肺炎・分泌物貯留
Wheeze呼気性の笛様連続音気管支喘息・COPD増悪
Rhonchi低調性の連続音「グーグー」分泌物による気道狭窄
Stridor吸気性の高調連続音上気道閉塞(緊急)
Pleural rub革が擦れるような音胸膜炎
胸部(心臓)
聴診4点
部位場所主に聴く弁
大動脈弁領域第2肋間・胸骨右縁大動脈弁(AS・AR)
肺動脈弁領域第2肋間・胸骨左縁肺動脈弁
三尖弁領域第4肋間・胸骨左縁三尖弁
僧帽弁領域心尖部(第5肋間・鎖骨中線)僧帽弁(MS・MR)
心雑音の特徴
タイミング原因
収縮期雑音AS(大動脈弁狭窄)・MR(僧帽弁閉鎖不全)・VSD・HCM
拡張期雑音AR(大動脈弁逆流)・MS(僧帽弁狭窄)→常に異常
連続性雑音PDA・動静脈瘻

✦ 雑音を聴いたら:Levine分類(Ⅰ〜Ⅵ)、部位、伝導方向、呼吸・体位変化を記録する。

腹部
腹部だけ例外:視診 → 聴診 → 打診 → 触診 の順。触診で腸蠕動が変化するため先に聴診する。
手順方法・着目点
視診膨隆・陥没・非対称・腸蠕動波(腸閉塞)・皮膚所見(手術痕・静脈怒張)
聴診腸蠕動音(亢進/減弱/消失)。1分以上聴く。右下腹部が基準点。
打診鼓音(空気)・濁音(液体・臓器)。肝臓・脾臓・膀胱の境界確認。移動性濁音(腹水)。
触診(浅)全9区画を時計回りに。圧痛の部位・腹壁緊張・筋性防御の確認。
触診(深)肝臓・脾臓・腎臓の触知。腫瘤の有無。
腹膜刺激徴候
四肢・末梢循環
神経系(スクリーニング)
意識レベル
脳神経スクリーニング
確認内容関連する脳神経
瞳孔・対光反射CN II・III
眼球運動(H字追視)CN III・IV・VI
顔面の左右対称性(「イー」)CN VII
嗄声・嚥下CN IX・X
胸鎖乳突筋・僧帽筋(肩を上げる)CN XI
舌の偏位(「あー」で舌を出す)CN XII
運動・反射
胸痛 — 重点診察
まず「すぐ死ぬか」を判断する。ACS・大動脈解離・PE・緊張性気胸の4つは見逃し厳禁。
腹痛 — 重点診察
呼吸困難 — 重点診察
意識障害 — 重点診察
まず血糖・SpO₂・体温を測定。「AIUEO TIPS」で原因を考えながら診察する。
発熱 — 重点診察
POCUS(Point-of-Care Ultrasound):ベッドサイドで行うエコー。診察の延長として使う。「確認のためのエコー」であり、精密検査の代替ではない。
RUSH プロトコル(ショック評価)
Rapid Ultrasound in SHock。ショック患者に対し系統的に心臓・IVC・肺・腹部を素早く評価する。
フェーズ1心臓(剣状突起下・傍胸骨)
心嚢液貯留・壁運動・左室収縮能の概括評価
所見の読み方
心嚢液あり→心タンポナーデ疑い(右室虚脱)
壁運動低下→心原性ショック
右室拡大→PE疑い(D-sign)
フェーズ2IVC(下大静脈)
剣状突起下・長軸で観察。呼吸性変動を確認。
所見の読み方
虚脱(細い・虚脱率>50%)→循環血液量減少(出血・脱水)
拡張(太い・虚脱なし)→右心系負荷(心不全・PE)
フェーズ3肺(前胸部・側胸部)
左右前胸部を上下2カ所ずつ(4点法)
所見の読み方
Bライン多数(≧3本)→肺水腫・間質性変化(心不全・肺炎)
Aライン→正常 or 気胸
lung sliding消失→気胸(M-modeでbarcode sign)
胸水:無エコー域が胸腔に
フェーズ4腹部(FAST)
Morrison窩・脾腎間・骨盤内・傍胸骨心嚢
所見の読み方
Morrison窩の無エコー域→腹腔内出血
腹水(骨盤内・肝周囲)→外傷・炎症・腫瘍
よく使うPOCUS — 部位別
膀胱残尿測定
コンベックスプローブ、恥骨上部に当てる。横断・縦断で楕円体近似。
所見の読み方
推定残尿量 = 幅 × 高さ × 奥行き × 0.52
150mL以上→排尿困難・尿閉を疑う
胸水穿刺前評価
座位で背中から。無エコー域を確認し穿刺点を決定。
所見の読み方
均一な無エコー→漏出性胸水
内部に輝度あり・隔壁→滲出性(感染・悪性)
横隔膜・脊椎を確認してから穿刺
DVT下肢静脈評価
リニアプローブ、大腿〜膝窩静脈を圧迫法で評価。
所見の読み方
圧迫で静脈が虚脱する→血栓なし(正常)
圧迫しても静脈が潰れない→DVT
腹部腹水評価
Morrison窩・骨盤内・脾腎間の3点を確認。
所見の読み方
無エコー域が腸管を囲む→腹水
腸管が浮遊している→大量腹水
POCUSの落とし穴
よくある落とし穴
「所見なし」と書く前に本当に診たか
「心音異常なし」は4点聴診したか。「腹部異常なし」は腹膜刺激も確認したか。省略した診察を「正常」と記録しない。
バイタルを「患者に会う前に」見すぎる
バイタルは参考情報。先入観を持って患者に会うと見逃しが増える。まず自分の目で見てからバイタルを確認する習慣も大事。
痛みのある部位を最初に触る
患者が防御して全体の診察が困難になる。必ず「痛くない場所から」始める。
聴診器を衣服の上から当てる
衣服の摩擦音が混入して雑音が判断できない。必ず直接皮膚に当てる。
腹部触診でひじを伸ばしたまま触る
力が入りすぎて浅い触診しかできない。ひじを軽く曲げ、指の腹で優しく触れる。
所見を「あり・なし」だけで記録する
「ラ音あり」ではなく「右下肺野の吸気終末期細かいcrackles」と性状・部位・タイミングを記録する。
診察を上手くするためのコツ
記録の型(カルテ記載)
// 身体所見の記録テンプレート
一般:意識清明、発熱(+/−)、急性病容(+/−)
頭頸部:眼瞼結膜蒼白(−)、強膜黄染(−)、
    頸部リンパ節触知(−)
胸部:両肺野清明、心音整、雑音(−)
腹部:平坦軟、腸蠕動正常、圧痛(−)、
   腹膜刺激徴候(−)
四肢:浮腫(−)、チアノーゼ(−)、CRT 2秒以内

✦ 「(−)」と書いた所見は「診察して確認した」という意味。確認していない所見は「未評価」と書く方が正直。