△ マルモ

マルモのトライアングル

大浦 誠 / 週刊医学界新聞 全24回連載より

複雑なマルモ症例の介入を「見える化」するフレームワーク。3ステップを順に埋めることで、まず何をすべきかが見えてくる。
STEP 1 プロブレム リスト #心血管/腎/代謝 #神経/精神科 … STEP 2 バランス モデル 3つの ポリ↓ つな ナラ↑ STEP 3 四則演算 + × ÷ 整理 → → 介入 ← 割り算で統合 →
1プロブレムリスト — 問題を網羅的に確認
疾患を5つのマルモパターンに当てはめてグループ化。5つのチェックポイント(パターン・生命・ADL・薬剤・社会)を確認する。この段階ではどうアプローチするかは考えず、ただ列挙する。
2バランスモデル — 介入のバランスを整理
治療負担(3つのポリ)を減らし、患者のできること(つなナラ)を増やす。「サポートが少ないな」「ポリドクターだな」という感想を持つだけでも良い。この感想が四則演算に活きる。
3四則演算 — ちょうどよい介入を決める
実際には割り算から始める(プロブレムをまとめる整理)。次に足し算→引き算→掛け算の順。多職種で相談するのが理想。
5つのチェックポイント
マルモの5疾患パターン
心血管/腎/代謝
高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳卒中、心疾患、腎臓病
神経/精神科
認知症、うつ病、パーキンソン病、双極性障害、精神障害
骨格/関節/消化器
変形性膝関節症、腰痛症、骨粗鬆症、消化器疾患
呼吸器/皮膚
喘息、COPD、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎
悪性/消化器/泌尿器
悪性腫瘍、消化器疾患、泌尿器疾患

+ 複数の診療科 / ポリファーマシー / 心理社会的問題 も必ず記載。疾患数が多いパターンを優先してまとめ、生命・ADLへの影響で重み付けする。

ポリファーマシーチェック 8カテゴリー
出血関連
抗血小板薬、ワルファリン、DOAC
血糖関連
SU剤、BG薬、SGLT2阻害薬
易感染関連
ステロイド、DMARDs
脈拍関連
ジギタリス、β遮断薬、シロスタゾール
老年症候群関連
転倒・誤嚥・認知症・尿閉 :利尿薬、降圧薬、抗精神病薬、睡眠薬、抗コリン系
腎機能関連
NSAIDs、利尿剤、ARBなど多数
排便・消化器関連
NSAIDs、PPI、H2B、緩下剤、ビスホスホネート
漢方・高額薬剤
処方目的の確認、薬価を確認

✦ 「中止すべき薬」だけでなく「不足している薬(アンダーユース)」も確認する。特に心不全・心房細動・骨粗鬆症・COPD・うつ病は過小処方に注意。

ガイドラインを遵守するだけでなく「やりすぎていないか、患者の持っている力を伸ばせないか」という視点で整理する。
バランスモデル — 2つの軸
増やしたい
患者のできること
Capability
疾患理解治療の目的・内容を患者が理解しているか
社会的サポート介護・家族・近所のインフォーマルサポート
レジリエンス逆境に強く、良い方向に持っていける力
減らしたい
治療負担
Treatment Burden
処方薬ポリファーマシー — 薬の数・複雑さ
分断された専門家診療ポリドクター — 主治医機能の欠如
厳格な生活習慣ポリアドバイス — 生活指導の過剰負担
「つなナラ」— Capabilityを深める視点(第12回)

患者の「つながり(関係性)」と「ナラティブ(物語)」を聞くことで、自然な行動変容につながる。問題を「解決しよう」とせず、患者が語るうちに自己解決する。

🔗 つながり
家族・職場・地域との関係性。どんな協力者がいるか? 近所付き合いは?
📖 ナラティブ
関心・趣味・好き嫌い・自分を伝える物語。患者の中から解決策を引き出す。

ドミナントストーリー(患者が信じている物語)を聞き → オルタナティブストーリー(違う視点の物語)に気付いてもらうアプローチ。医学的アドバイスより効果的な行動変容につながることがある。

四則演算は医師一人で考えていると思考の癖が出る。多職種で「自分ならこうする」と話し合うのが理想。実際には割り算から始める
÷割り算 — まず始める
複数のプロブレムをまとめられないか考える。「本当にそれが問題だったのか」という整理から入る。
例:複数の診療科を一元化する。処方カスケードを特定してまとめて中止する。心理社会的問題の根源を見つけて整理する。疾患パターンごとにプロブレムをまとめる。
+足し算 — 包括的介入を列挙
漏れなく介入方法を挙げる。標準的治療・多職種介入・ABCDEアプローチなど。
例:誤嚥性肺炎にABCDEアプローチ(急性治療・ポジショニング・口腔ケア・薬剤・栄養・リハビリ・倫理)を行う。新規診断への追加治療。がん検診・ワクチンなどヘルスメンテナンス。
引き算 — 負担になる介入を減らす
「余計なことをしていないか」という視点で、治療負担になっている介入を減らす。
例:PIMs(潜在的不適切薬)を中止する。検査の必要性を事前確率で判断して絞る。ポリアドバイスになっている生活指導を整理する。末期がんでは予防目的の薬を中止(Deprescribing)。
×掛け算 — レバレッジポイントを探す
少ない介入で大きな効果を生む点を見つける。問題の起点(連鎖の始まり)を特定する。
例:友人の死が抑うつ・フレイルの原因と気づき、趣味再開を勧めることで服薬・歩行訓練にも波及した。農作業前に内服のタイミングを変えるだけでアドヒアランスが劇的改善。パートナーに健康管理を頼む。
処方カスケードを防ぐ3つの問い(第17回)
第24回(最終回)より。トライアングルを埋めることが目的ではなく、3つの視点を常に頭に浮かべながら検討することが重要。
🧑 患者の視点 — バランスモデルを眺めながら患者の人生を想像する
「どんな人生を歩んできた方だろう」という視点で具体的に想像する。仕事・家族・地域・役割・生きがい。患者がどのような治療を希望しているか、ひいてはどのような人生を希望しているかをイメージする。「つなナラ」で理解を深める。
🔬 医師の視点 — 疾患パターンから今後起こり得る病態を予測する
プロブレムリストを眺めながら、併発する可能性のある疾患を予測する。「今起きていること」だけでなく「今後起きそうなこと」を事前に想定する。老年症候群(褥瘡・栄養失調・認知症・失禁・フレイル)も意識する。がん検診・禁煙・ヘルスメンテナンスも確認。
🌐 メタの視点 — 外来・医療機関・地域・国までイメージする
ある見方に固執せず、別の見方ができないかと考える。外来全体のマネジメント(時間・マンパワー・スタッフの得意)。地域のリソース・社会的処方の活用。医療制度の影響。一人で抱え込まず地域のリソースを活用する。
マルモカンファレンス(南砺マルモカンファ)の位置づけ

四則演算は多職種で相談するとアイデアが生まれる。プロブレムリスト・バランスモデル・四則演算を共通言語として、各職種の言葉でどこに強みがあるかを相互理解できる。これはIPE(多職種連携教育)としても機能する。

多職種連携 IPE ナラティブアプローチ 社会的処方 Cynefinフレームワーク